5分でわかる獣医麻酔学

鎮静薬を投与する方法は?

5分 獣医麻酔

前回は鎮静薬の必要性と安全性に関してお伝えしました。

鎮静 
鎮静って何?前回の記事では麻酔がどういったものなのかを説明しました。 https://aninenne.com/?p=246 麻酔には鎮...

今回は鎮静薬を実際どうやって投与するのかに関してお話いたします。

薬が吸収されるには

その前に薬がどう吸収され、出ていくかを知らないと、それぞれの投与方法の特徴を考えられません。

薬が吸収されてから出ていくまでの基本を説明します。

ご麻ちゃん
ご麻ちゃん
僕が薬になって説明するよ!

薬が血管に入るまで

薬物 投与

投与された薬は濃度勾配に従って、血管の膜を通過し、血管の中に入ります(①→③)。そして血管の中を流れていきます(④)。薬の一部はリンパ管という、血管に似た管にも吸収されます。

薬が血流に運ばれて、排泄されるまで


小さな血管から、大きな血管の血流に乗ります。標的部位(その薬が効く場所)まで運ばれ、薬の効果を発揮します。そして肝臓や腎臓で代謝(分解)され、身体から排泄されます。

この過程は、薬の種類や、投与された場所、血管・血流の状態など様々な要素によって影響を受けます。例えば血流が無いところに投与しても薬は吸収されませんし、血流が速ければ薬は早く目的地まで到達します。

鎮静薬の投与経路

鎮静薬を投与する方法は、種類があります。

静脈内投与

血管に直接薬を入れる方法です。血管内に直接アクセスできるように血管を確保する(留置をとる)必要性があります。

利点

先ほど説明した、血管の膜を通過する段階をスキップできます(1枚目の画像の②→③)。そのため入れた分だけ薬の効果が確実にでます。すぐに薬が脳に届き、即効性があります。また投与できる薬の種類も多いです。一番理想に近い投与方法です。

欠点

留置をとる作業は慎重に行う必要があるため、患者には5分程度じっとしといてもらわないといけません。そのため、保定(抑えること)ができない患者や、血管確保が難しい小動物等には、この投与方法は適さず、他の投与ルートを考えなければいけません。また、直接血管に入れるため、感染のリスクがあるので、刺す部位を必ず毛刈りをして、消毒する必要があります。

筋肉内投与

筋肉に針を刺して薬を投与します。獣医療の鎮静薬の投与方法としては最も一般的です。よく犬猫で投与されるのは、太ももの筋肉か、背中の筋肉です。

利点

太ももや背中の大きな筋肉は血流が豊富なため、薬が血流に乗りやすく比較的早く効果がでます。また静脈投与と異なり、1秒もあれば薬を投与できるので、短時間の保定(動物を抑える)で済みます

欠点

薬の量が多いと痛がります。脂肪の多い動物では、針が筋肉内に入らない場合があります。脂肪に薬が入ってしまうと吸収されず、効果がなかなか出にくくなります。ブタ等の動物では、長い針を使って投与する必要があります。

皮下投与

皮膚の下にある、皮下という組織に針を刺して投与する方法です。

利点

犬や猫は、皮下に柔軟なスペースが広くあり、筋肉内投与に比べ多くの薬液量を投与できます。神経も少なく、痛みが少ない投与方法です。ゆっくり薬が吸収される傾向があり、長時間効かせたい薬には適しています。また、筋肉内投与と同じく、短時間で投与可能です。

欠点

針を使うため痛みはあります。皮下は筋肉内に比べると血流が少ないため、効果が出るまでに時間が必要です。また脂肪もあるため、筋肉内投与と比べ効果の安定性が落ちてしまいます。つまり寝る時間も、どれくらい寝るか安定しない可能性があります。特に脂肪の多い動物種では、薬の効果が全く出ないこともあるので注意が必要です。また刺激のある薬は、この投与方法でも痛みを生じます。

経口投与

飲み薬のことを指しています。錠剤やカプセル、散剤等です。

利点

痛みが無く投与可能です。患者にとってストレスのない方法です。また針を使わないため、家でも投与可能な方法です。病院だと怒ってしまう患者には、病院に来る前に飲ませてあげることにより、患者本人も、病院スタッフのストレスも下がる可能性のある方法です。

欠点

胃の粘膜を通して吸収されるため、他の方法よりも効果が安定しません。また、効果が出るまでの時間がかかるため、病院内での鎮静薬の投与経路としては適さないことが多いです。

吸入法

吸入麻酔ガスを嗅がせることによって、寝かせる方法です。肺の血管を通じて薬が吸収され、排泄されます。マスクを使って嗅がせる方法(マスク法)と、箱の中をガスで満たして寝かせる方法(ボックス法)があります。

利点

吸入麻酔ガスは代謝が早いため、鎮静から短時間で回復します。鎮静薬のデータが少ない動物種であっても、比較的安全に使用することができます。またボックス法では動物を抑える必要がないため、触れることのができない気性の荒い動物に適用可能な方法です。

欠点

寝かせるまでに時間がかかります。またマスクで嗅がせる場合は、しばらく抑えておかないといけません。ボックス法であると、箱に閉じ込めなければいけないためストレスが大きいです。さらに大量の麻酔ガスを消費するため、環境にとっては悪い方法です。

 

他にもあまり一般的ではないですが、鼻腔内投与や腹腔内投与、口腔粘膜投与、経腸粘膜投与等があります。これらはまた機会があれば説明しようと思います。

どの投与方法がオススメ?

どの方法も一長一短です。薬の種類や患者の状態によっても適切な投与方法は異なります。

鎮静のみ必要

筋肉内投与がおすすめです。ただし、皮下投与も可能です。

麻酔が必要(完全に寝かせる)

筋肉内投与をし鎮静をある程度得た後、血管確保、そして静脈内投与によってさらに鎮静をかけることをおすすめします。もし血管がすでに確保されていれば、ほとんどの場合筋肉内投与で鎮静をかける必要はありません。

 

ご麻ちゃん
ご麻ちゃん
適切な使用が大事なんだね!