第一回のお話は「そもそも麻酔って何?」っというお話です。
獣医医療において麻酔は身近なものであり、ペットの手術を行う際には麻酔は必要です。
麻酔の目的って
そもそも麻酔科学とは(wikipediaによると)
麻酔科学は、歴史的には外科手術を円滑に行うために登場した医学・医療の一分野で、疾患・手術操作・薬剤に対する生理的反応を平常状態へと促すよう行動し、患者の安全と快適を目指す。
「”麻酔科学”」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』より。” 2019年4月13日” UTC URL: http://ja.wikipedia.org/
ここでのポイントは”平常状態へ促す“ということです!
平常状態とは麻酔をかけていない普段の生活している状態を指しています。麻酔をかけると、どうしても身体の機能に影響します。例えば、呼吸が止まったり、心拍数が落ちたりします。さらに、手術をすることで痛みも加わるのです。そんな特殊な環境下においても体の大事な機能を起きている状態と変わらず保ってあげるのが麻酔というわけです。
つまり麻酔の目的は
患者の身体の機能を手術中だったとしても、普段の状態に可能な限り近づける!
ということです。
意外と単純な目的なのです。
麻酔の種類
麻酔にはいくつか種類があります。
全身麻酔
麻酔と聞いて思い浮かぶのは、ドラマでよく見る患者さんが呼吸をするための気管チューブを入れられて眠っている姿じゃないでしょうか?獣医医療従事者も動物が、気管挿管されてる姿だと思います。記憶も無い状態にして、起きたら手術が終わってる。それが全身麻酔です。一般的に獣医で行われるのはこの麻酔です。全身麻酔を行うためにはプロポフォールといった静脈麻酔薬や、イソフルランといった吸入麻酔薬が必要になります。
局所麻酔
一方局所麻酔は患者さんは起きている状態であっても、神経だけを麻痺させ、痛覚といった感覚を無くす方法です。代表的なものは出産時における無痛分娩(硬膜外麻酔)や、歯医者で行う局所麻酔などです。
動物では、処置をする際には全身麻酔を使うのが一般的で、局所麻酔のみの処置を行うことは非常に稀です。全身麻酔に局所麻酔も併用することはあります。
全身麻酔の3要素
麻酔には大きく分けると3つの要素が必要です。
- 鎮静(意識消失)
- 鎮痛
- 筋弛緩 (不動化)
この3大要素で全身麻酔は構成されています。この3つをバランス良く満たすことが全身麻酔では必要となります。それぞれ説明していきます。
鎮静 (意識消失)
1つ目が鎮静(意識消失)です。つまり眠ってもらうということです。
ヒトは交渉できますが、動物は「待て」はできても、完全にじっとしてることができません。
もし痛みを完全に無くしたとしても、骨折の処置を犬・猫にするときじっとしててくれるでしょか?答えはNOですよね。そのため、意識を無くしてしてあげることが必要となります。
本来はこの”じっとしてる”は麻酔の要素の3つ目の”不動化“のことを指しているのですが、動物に関しては少し違うということですね。
ヒトの場合と違い、痛みの無い検査においても麻酔をかける必要があるのはこの鎮静を得るためです。
鎮痛
2つ目は鎮痛です。これはいうまでもなく痛いのは誰だって嫌ですよね。それは動物も同じです。動物も痛みを感じます。さらに痛みがあることによって麻酔から覚めた後、ストレスがかかり、患者の健康に影響します。そのために手術中は鎮痛薬や局所麻酔薬を使用して痛みを可能な限り減らしてあげる事が必要です。
筋弛緩(不動化)
最後の3つ目は筋弛緩ですが、実は動物では気にされることは多くないです。筋肉の収縮が強くて上手に縫合できないなど、筋弛緩が弱いとトラブルが起きる事があります。しかし、動物では病院では そういった問題が起きることは、ほとんどありません。おそらく、”筋弛緩が弱いから筋弛緩薬を追加して”といったことを手術中に聞いた事はあまりないと思います。
獣医の中でも眼科の手術をする場合、最近増えてきている腹腔鏡手術を行う場合だと筋弛緩薬を使うことも有ります。その説明はまたの機会にしようと思います。
全身麻酔の危険性
残念ですが、全身麻酔によって手術中や手術後に患者が亡くなってしまう事はあります。
ただ、イギリスで行った研究によると全身麻酔に関連した死亡率は健康な犬で0.05%、猫で0.11%でした。さらに、少し前に日本で行われた研究でも、健康な犬で全身麻酔後48時間以内の死亡率は、0.28%でした。つまり、麻酔を行って亡くなってしまう動物の数は決して多くはないのです。
ただこれはしっかりと麻酔前の評価や、手術中の状態をしっかり管理した場合に限ります。獣医医療従事者の方は一緒に麻酔の知識をつけて、安全な麻酔を提供できるように協力していただけると幸いです。