5分でわかる獣医麻酔学

痛みは動物も感じるの?

Pain 痛い 獣医

前回までは鎮静のことに関してでした。

5分 獣医麻酔
鎮静薬を投与する方法は?前回は鎮静薬の必要性と安全性に関してお伝えしました。 https://aninenne.com/?p=322 今回は鎮静薬を...

今回は誰もが気になる「痛み」についてです。麻酔学として考えなくてはいけない重要な3つの要素のうちの一つです。ヒトと違い動物は「痛い」と言葉で表現してくれないので、獣医師と飼い主がしっかり痛みを理解して、管理しなければいけません。

そもそも痛みって?

ヒトでは

痛みの定義は、体のどこかがダメージを受けたり炎症がある場合に感じる不快な感覚や経験という事になっています。ただし、痛みという感覚は必ずしも何かの傷害が伴うとは限りません。また、同程度の刺激でも、我慢強いヒトの痛みと、痛みに弱いヒトの痛みは全然違います。

動物では

動物も基本的にはヒトと同じです。ただし、言葉を話すことができないため痛みを感じているか聞くことはできません。結果として、嫌悪を感じる感覚や経験によって引き起こされる、隠れたり、逃げたりといった防御反応を痛みとして扱います。この防御反応は時に噛み付いたり、引っ掻いたりといった攻撃的な反応になったりもします。動物種や、個体ごとに異なる反応を示す事があります。

痛みは”悪”なの?

痛みには大切な役割があり、危険を回避するために必要なものなのです。痛みがあることによって、傷がついている身体の部位を知る事ができます。結果的に危険な行動を避けたり、それ以上その体の部位を傷つけないような行動を取ることが可能になります。ヒトでは生まれつき全く痛みを感じない「先天性無痛無汗症」という難病が認められていますが、痛みを感じないことによって、行動の制御ができなく、骨折や、脱臼を繰り返してしまう様です。

ご麻ちゃん
ご麻ちゃん
つまり痛みは必要なんだね。

なぜ痛みを止める必要があるのか

痛みは「悪」ではないのですが、痛みを感じた部位がわかればそれに対して治療が可能です。痛みを自己治癒し終わるまで待つ必要はなく、医療介入できるのです。つまりは、痛みを感じていることを確認できれば、そこで痛みの役割は終わりです。

獣医医療においては痛みがどこで起きているかを見分けるのも難しいことも多いですが、ペットに関しては痛みを感じて調子が悪そうということが飼い主に伝わり、動物病院まで来たら痛みの役割は終わりです。その先は痛みは健康状態に悪影響を与えるものなので、積極的に痛みは止めるべきです。

ヒトと同じで痛みがあると生活もしづらいですし、精神衛生上も良くないのは動物も一緒です。手術後の痛みに関しては、痛みのコントロールが上手くいかない状況では、傷の治りが悪くなる、傷口が感染しやすくなる、手術後の食事量・睡眠時間の減少など色々悪影響があります。

ご麻ちゃん
ご麻ちゃん
痛みは無いほうが幸せ!

痛みはどう伝わるの?

もし、動物が傷ついた場合、痛みを感じるまでには様々なステップがあります。今回は痛みを止めることを考える際に大事な過程のみ上げています。以下のステップを通って痛い!という反応を受け取ります。このステップのどこかに鎮痛薬が作用して痛みを抑えています。

変換

痛みに関わる刺激を神経に伝わる形の電気的な刺激に変換します。変換は侵害受容器というところで行われます。大きく分けると物理的刺激(針で刺された等)、熱刺激、化学的刺激(炎症によってでる化学物質等)に分けられます。

Pain Pass Way (peripheral nerve)

伝達

刺激を受けとった神経が脊髄を通り、脳にその信号を伝えます

pain pass way

これには痛みを早く伝える神経(Aδ)と、遅く伝える神経(C繊維)、脊髄が関わっています。

修飾

痛みの刺激は伝達の過程で減弱されたり増幅したりされます(上の図の、”強く・弱く”の段階)。つまり同じ刺激の強さでも、痛みの程度は変わるということです。

主に脊髄で行われ、これには脳から脊髄に向かって伸びている神経も関わっています。

知覚

脳で伝わってきた刺激を痛みとして知覚します。

痛みの種類

痛みには大きく分けると2つの種類があります。

急性痛

一般的に手術の傷や、怪我をした時に発生する痛みのことですこの痛みは時間と共に弱まり、怪我が治れば痛みはなくなります(数日~1週間ぐらい)。動物によっては痛みを隠したり治すために行動が変化します。

慢性痛

急性期を過ぎても持続している痛みのことです。痛みを引き起こしたと考えられるイベントが起きた後、予想されている期間よりも長く痛みを感じているようであれば、慢性痛とされます。慢性的な炎症、神経痛などによって引き起こされます。慢性痛は痛みを増幅させてしまい、生活の質を低下させてしまいます。

痛みの評価方法は

手術中の痛みを考える

手術中において動物の痛みを評価する方法として、一番古くから使用されているのは、心拍数、血圧、呼吸数の上昇などです。しかし、この方法の欠点は麻酔の深度(鎮静の程度)が適切ではない場合であっても同じ反応が起こるということです。それが痛みへの反応なのか、それとも鎮静が足りないのかを判断する方法は明確にはありません。そのため状況次第で、鎮痛薬を入れるのか、鎮静薬を入れるのか決めることが求められます。

他にも痛みを評価するために様々な研究がされてきましたが、臨床現場で使用できる方法は未だ確立できておりません。

手術後の痛みのレベルを評価する

動物は痛みを言葉で伝えることができないため、痛みを評価することが非常に難しく、獣医医療における大きな課題となっています。

現在までに動物の行動や、表情、術創を触ったときの反応などの評価方法が研究されてきました。

評価方法としてColorado state university acute pain scale ()や、Glasgow Composite Measure Pain(・ )が有名です。また、日本だと「動物のいたみ研究会」が作成した「犬の急性痛ペインスケール」というものもあります(https://dourinken.com/forum/itamiken/)。

個人的には一番最初に上げたColorado大学のものが、イラスト付きで、鎮痛薬を使うべきかも書いてあるのでわかりやすいと思います。ただ、どの評価方法が絶対良いというわけではないので、使いやすいものを使用することをオススメします。

これらの評価方法は主観的な評価になってしまうことは事実です。ただし、痛みを評価する習慣を付けると、患者の痛みに気づくことができるようになります。結果として、適切な鎮痛薬の使用に繋がり、鎮痛薬をいれた際に鎮痛効果が出たのかも判断することが可能となるため、痛みを評価することを勧めます。

また飼い主さんの方がペットの痛みには気づきやすいです。そのため、手術が終わり帰宅後は、飼い主さんにも一緒に痛みを評価してもらうようにしましょう。鎮痛薬を飲んでいるからといって、必ず痛みを感じていないというわけではないので、その患者をしっかり見てあげて下さい。

ご麻ちゃん
ご麻ちゃん
痛みを感じているか気にする習慣をつけよう!

 

 

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