前回の記事では麻酔がどういったものなのかを説明しました。
麻酔には鎮静(意識消失)・鎮痛・筋弛緩(不動化)の3要素が必要でした。
今回は鎮静に関して説明いたします。
鎮静薬って何?
実際に麻酔(鎮静)をかけるには鎮静薬を投与する必要があります。
鎮静薬とは
鎮静薬(ちんせいやく、英:Sedative)は、中枢神経系に作用し興奮を鎮静する薬物である。睡眠薬として利用される場合もある。また、手術の麻酔前に投与されることがある。「”鎮静薬”」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』より。” 2018年4月12日” UTC URL:https://ja.wikipedia.org/
中枢神経系は脳と脊髄のことを指しています。これらは意識を保つために必要であり、筋肉を動かすことや、呼吸をすることなどを指示している身体にとって大事な場所です。
その機能に影響を与えて、ぼーっとさせるのが鎮静薬というわけです。
患者を鎮静するには、鎮静薬として分類されている薬以外も使えます。ただどの薬も、この中枢神経系に影響を与えて鎮静効果を得る点は同じです。
鎮静効果を得ることができる薬には様々な種類があり、特徴が違います。それぞれの薬のお話はまた違う記事に書こうと思います。
鎮静は何故必要なのか
じっとしてもらうため
前回もお話しましたが、動物は「待て!」はできても長い時間同じ姿勢でじっとすることは難しいです。そのため、場合によっては全身麻酔の前だけでなく、レントゲンの撮影、エコーの検査、麻酔前の留置針の設置、ときに採血であっても鎮静をかける必要性があるのです。動物が暴れる事がないので、検査にかかる時間も短縮する事ができます。
患者の不安軽減のため
ほとんどの患者はそもそもなぜ検査や処置を行わなければいけないのかもわかりません。処置を行う際に、知らない人(獣医師や動物看護師)に触られて不安になって、病院嫌いになってしまったり、怒って攻撃的になってしまう患者もいます。また手術室に行く際に、急に抱っこされて台に乗せられたら不安ですよね?そういったことが予想される場合にも鎮静処置は必要です。
麻酔をする際の危険を減らすため
麻酔をかける際には「注射麻酔薬」という、鎮静効果のより強い薬を患者に投与します。注射麻酔薬は強力な鎮静効果と引き換えに呼吸を止めてしまったり、心臓の動きを悪くしてしまう可能性があります。
なるべくこれらの悪い作用を出さないようにするためには、注射麻酔薬の投与量を減らすことが一番簡単です。鎮静薬を使うことにより、注射麻酔薬の鎮静効果を補います。
この目的で鎮静薬を投与する場合は、しっかり鎮静効果がでるまで待ってから麻酔の導入をすることが重要です。
鎮静薬をいれて問題は起きないの?
基本的には安全
鎮静薬として用いれられる薬は、安全域の広い(量をいれても呼吸が止まったりしない)薬が選択される場合がほとんどです。そのため鎮静薬を入れることによって、問題が起きることは滅多にありません。
犬猫に関する麻酔の危険性についての研究では、周術期(麻酔をかけて起こすまで)に心肺停止となった患者は3年間で16頭でした。その16頭の中で、鎮静薬の使用が原因で亡くなってしまった患者さんは1頭のみでした。他の理由は動物の状態が元々悪かったり、手術によるもの、または人為的な原因で起きる事が多いという結果でした。
鎮静する際の注意点
基本的には安全ですが、いくつかの注意点があります。
例えば獣医医療でも使われてることの多いメデトミジンという薬は、鎮静効果の他に血管をぎゅっと収縮させる効果もあるため、心臓の悪い患者には注意して使用する必要があります。
またプロポフォールという薬は、少ない量であれば鎮静薬として作用しますが、量を多く入れれば意識を完全に失わせる薬として、さらに投与すれば呼吸も止まってしまいます。
マイケル・ジャクソンが死んでしまったのもこの薬のせいであるといわれており、気持ちを落ち着かせるための鎮静薬として使用するつもりが、多い量を入れてしまったため麻酔薬として機能し、呼吸を止めてしまったと考えられています。
プロポフォールの様な使い方次第で完全に寝かせることのできる危険性のある薬は、「注射麻酔薬」と分類されています。
ただしっかりとした知識を持って使用すれば、プロポフォール等の安全域の広くない(使用に注意が必要な)薬も鎮静薬として使用可能です。逆を言えば安全域の広い薬だったとしても、使い方を誤れば危険なのです。
「この薬は危険!」ということではなく、使い方次第なのです。危険な薬にするのは薬自体ではなく、使用者であり使用方法なのです。今使われてる薬は様々な研究者が知恵を絞ってできた薬で、世の中にでるまでに様々な審査を通ってきたエリート達なので、そのエリートを扱えるように知識をつけましょう!
健康な子では大丈夫な鎮静薬の使い方でも、健康状態がかなり悪い子では、薬の投与によって状態がさらに悪くなる可能性もあります。健康状態がかなり悪い子に鎮静薬を入れる際には、鎮静薬の使い方になれた獣医師に相談することをオススメします。
それぞれの薬の特徴はまた別の記事で書く予定です。